お勉強の記録

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ACA_0とATR_0の間の体系について

この記事は Mathematical Logic Advent Calendar2020(https://adventar.org/calendars/5002)の6日目の記事です.

概要

二階算術の部分体系では,ビッグ5と呼ばれる五つの体系( \text{RCA}_0,\text{WKL}_0,\text{ACA}_0,\text{ATR}_0,\Pi^1_1\text{-CA}_0)がよく扱われます. 昨年の記事 二階算術の諸体系のモデル - お勉強の記録 ではこれらについて述べたので,本記事ではビッグ5以外の体系について述べたいと思います. その中でも特に\text{ACA}_0\text{ATR}_0の間にある二つの体系,\text{ACA}_0'\text{ACA}_0^+について解説します.

\text{ACA}_0\text{ATR}_0

\text{ACA}_0は,任意の(集合パラメータありの)算術的論理式 \varphi(n)に対して,集合 \{n: \varphi(n)\}が存在する(算術的内包公理)という体系でした.一方\text{ATR}_0は,この操作を任意の(可算)順序数に沿って行える,というものでした.もう少しフォーマルに述べると,\text{ATR}_0では任意の順序数\alphaと任意の算術的論理式\varphi(n,X)に対して,次のようにして集合族\{A_\beta:\beta \lt \alpha\}を定義することができます:

A_0 = \{n:\varphi(n,\varnothing)\}

 A_\beta = \{n:\varphi(n,A_{\lt \beta})\}

ここで,A_{\lt \beta} \{(n,\gamma) : \gamma \lt \beta, n \in A_\gamma\}という集合で,今まで定義されたA_\gammaたちの情報をすべて持っているような集合になります.

\text{ACA}_0'\text{ACA}_0^+

\text{ATR}_0の例からもわかるように,算術的内包公理を繰り返すことでより複雑な集合を作ることができるようになります. そこで算術的内包公理の繰り返しにより体系を複雑化させることを考えたいのですが,まず\text{ACA}_0でどの程度の繰り返しができるかを考えてみましょう.すると,任意の標準自然数 k \in \omegaに対してはk回の繰り返しができることがわかります(つまり,上の\text{ATR}_0の説明で\alpha = kの場合は\text{ACA}_0でも証明できます). ところが,これより少し複雑な,「任意の有限順序数k \in \mathbb{N}に対してk回の繰り返し」は\text{ACA}_0では一般にできません.この\text{ACA}_0に「任意の有限順序数k \in \mathbb{N}に対してk回算術的内包公理を繰り返せる」という公理を付け加えた体系を\text{ACA}_0'と呼びます.そして,\text{ACA}_0'より強い体系として,「最小の無限順序数(\mathbb{N}の順序型)回」の繰り返し」を認める体系を\text{ACA}_0^+と言います.

体系たちの強さ

定義から明らかに \text{ACA}_0 \leq \text{ACA}_0' \leq \text{ACA}_0^+ \leq \text{ATR}_0となることがわかりますが,これらの不等号はすべて真の不等号になります.

定理: \text{ACA}_0 \lt \text{ACA}_0'

(証明) 任意にPAの超準モデルMを取る.\text{ARITH}^MMで集合パラメータなしの算術的論理式で定義できる集合全体とすると,(M,\text{ARITH}^M)\text{ACA}_0のモデルだが \text{ACA}_0' のモデルではない.

系: \text{ACA}_0 \not \vdash \Sigma^1_1帰納法

(証明)  \text{ACA}_0 + \Sigma^1_1帰納法 \vdash \text{ACA}_0' より明らか.

定理:\text{ACA}_0' \lt \text{ACA}_0^+

(証明) 明らかに\omegaモデルにおいては\text{ACA}_0'\text{ACA}_0に違いはなく,したがって\omega上で算術的パラメータなしで定義できる集合の全体ARITHは\text{ACA}_0'のモデルである.一方でこれは\text{ACA}_0^+のモデルではない.

定理:\text{ACA}_0^+ \lt \text{ATR}_0

(証明)  \{ A \subseteq \omega: A \leq_T \emptyset^{(\omega\cdot n)} \text{ for some } n\}:\text{ACA}_0'^+のモデルだが\text{ATR}_0のモデルでない.

関連する定理

以上のように,それぞれの体系が別々の強さを持つことがわかりました.それでは,各々の体系と関連する定理には何があるでしょうか?\text{ACA}_0\text{ATR}_0についてはSimpsonのSubsystems of Second Oder Arithmeticに詳しく述べられているので,ここでは残りの二つについて述べようと思います.

まず,\text{ACA}_0'\text{RCA}_0上でフルのRamseyの定理と同値であることが知られています.(Hirschfeldt,Slicing the Truth,定理6.27) より一般に,nをパラメータとするような問題であって,解の複雑さが(nの適当な式)回Turingジャンプ程度になるものについては,証明するのに\text{ACA}_0では不十分でこの体系が必要なものと思われます.

また,\text{ACA}_0^+については,Hindmanの定理と関係することが知られています.Hindmanの定理ついては現状\text{ACA}_0\text{ACA}_0^+の中間にあることはわかっているようですが,厳密な強さについては未解決のようです.(Blass,Hirst,Simpson, Logical Analysis of Some Theorems of Combinatorics And Topological Dynamics,定理2.6,定理4.12)

おまけ

以上のように,算術的内包公理の繰り返し回数を適当に制限することによって\text{ACA}_0\text{ATR}_0の間に様々な体系を作ることができます. このような形で作られる体系は,他にもあり,例えば繰り返しの回数を原始再帰的順序数に制限した\text{ATR}_0^Jなどが知られています.