独断と偏見による逆数学のススメ
この記事は Mathematical Logic Advent Calendar 2022の 7日目の記事です. 逆数学についての書籍や,勉強を始めるにあたってあったほうが良い予備知識などについて書きました.
ACA0から証明可能なΠ^1_2文について
この記事は
Mathematical Logic Advent Calendar 2022の 6日目の記事です.
ACA0からという形の文(は算術的)が証明可能なとき,XからYを一様に与える算術的に定義可能なfunctionalが存在することを示し,それを利用したATR0の特徴づけを与えました.
TeXの分割コンパイル
例:a.tex b.texを個別に作って,それらを結合して一つのpdfを作りたい場合
以下を用意する:pre.tex a.tex b.tex main.tex a-comp.tex b-comp.tex それぞれの中身は以下の通り
pre.tex ドキュメントクラス情報を除くプリアンブルを全て書く
a.tex, b.tex(個別の中身) a.texを普通に作ろうと思った時に\begin{document}と\end{document}の間に書く内容を書く
a-comp.tex (a.texをコンパイルするためのファイル)
\documentclass[hoge]{fuga}
\input{pre.tex} (必要に応じて適当にパスを指定する)
\begin{document}
\input{a.tex}
\end{document}
main.tex a.tex,b.texの内容を結合した一つのpdfを出力するためのファイル
\documentclass[hoge]{fuga}
\input{begin}
\begin{doucment}
\input{a}
\input{b}
\end{document}
a.tex, b.texはコンパイルできない.これらをコンパイルしたいときは,代わりにa-compやb-compをコンパイルする. main.texをコンパイルするとa,bが一つにまとまったpdfが出力される
参考:Texで複数ファイルと個別ファイルでコンパイルする方法 - 月からの使い こちらの記事を参考にしつつ,個別ファイルをコンパイル用ファイルと中身ファイルに分けることにした.
超フィルターを使ったRamseyの定理の証明の形式化
この記事は
Mathematical Logic Advent Calendar 2020( https://adventar.org/calendars/5002)の17日目の記事です.
内容はACAでのRameyの定理の証明です. Prehomogeneous setを取る際に,よく知られたErdös/Radó treeを使う方法ではなく, 超フィルターを使った証明の形式化を与えました. Ramsey型の定理で超フィルターが有効に働くのは,無限集合有限個の共通部分が再び無限集合となるように扱えるからですが, Ramseyの定理を証明する際にはその部分の議論をRTで代用できる,というのが基本的な議論です.
Hessianを計算するのがめんどくさかった話
この記事は
日曜数学 Advent Calendar 2020 - Adventar 7日目の記事です
前日の6日目はmath_Kantenさんによる一風変わった切り口の記事でとても面白かったです.
導入
突然ですが,次のような問題を考えてみましょう:
関数について,が平面全体を動く時の極値をすべて求めよ.
いかにも偏微分を習いたての頃に演習問題で出てきそうな趣の問題です.
この問題を考える時,まず有用なのが次の事実です:
(十分滑らかで,平面全体を定義域とする)関数について,が極値となるとすると,である.
さて,上の事実を逆に言えば *1 極値を考える時はとなるような場所だけを考えれば良いということになります.というわけでまずは一階偏導関数を求めてみましょう.ちょっと計算が大変ですが,この程度なら気合いでなんとかなります. 計算結果は次のようになります:
ここからとなる点を求めると,の五つであることがわかります.
Hessian
したがって,あとは上の五つの点がそれぞれ極値を与えるか否かを考えれば良いことになります. このうちについては,付近でのの符号を考えれば極値になり得ないことがすぐにわかります. 残りの4点について考える上で,よく知られた次の事実は有用そうです:
(十分滑らかで,平面全体を定義域とする)関数について,であるとする. このときであればは極値であり であればは極値でない.
このにはHessianという名前がついています.上記の通り関数の極値を求める上で有用なものですが,いかんせん今回の場合は計算がめんどくさい! 上で求めた一階微分の式からも容易に想像がつく通り,今回のの二階微分を求めるのは計算量が多くなかなか大変です.そこでできればもっと単純な方法で求めたい,というのが今回の記事の主旨になります.
(多変数版)最大値原理
とりあえず残りの4点についてによる値を計算してみると,それぞれ となることがわかります. またをググッと睨むとであることもわかります. したがって,十分大きいをとると,のときとなります. ところで,次の多変数版最大値原理を考えれば,はでの最大値,最小値を持つがわかります.
を連続関数として,とする. このときは上での最大値,最小値を持つ.
(これが1変数の最大値原理(連続関数は閉区間上での最大値,最小値を持つ)の自然な拡張であることはすぐにわかると思います)
ところで,やはを満たすため,のでの最大値は以上, 最小値は以下となることがわかります.したがっての定義からとなる点ではでの最大値や最小値を与える点は存在しません. するとはでの最大値,最小値を持つことになります.すぐわかることとして,この範囲での最大値最小値はの微分零点によって与えられます. すなわち,のでの最大値最小値はの中に存在することになります. つまり,のでの最大値は,最小値はとなります. ところでの取り方からこれは平面全体でのの最大値,最小値をそれぞれ与えることもすぐわかります. 最大値は極大値であり最小値は極小値であることから,当初の問題の答えは以下のようになります.
は極大値,極小値を持つ.
以上のようにして面倒な微分を計算することなく極大値極小値を求めることができました.
おまけ
上記の議論は次のような形で一般化することができます.
連続関数は,を満たすとする. このとき 1. ある点でが正となるときは最大値を持ち, 2. ある点でが負となるときは最小値を持つ.
*1:この場合の逆に言えばは日常語であって,論理的な意味での逆向きのimplicationの意味ではありません.対偶を取れば,という方がいいかも…
ACA_0とATR_0の間の体系について
この記事は Mathematical Logic Advent Calendar2020(https://adventar.org/calendars/5002)の6日目の記事です.
概要
二階算術の部分体系では,ビッグ5と呼ばれる五つの体系()がよく扱われます. 昨年の記事 二階算術の諸体系のモデル - お勉強の記録 ではこれらについて述べたので,本記事ではビッグ5以外の体系について述べたいと思います. その中でも特にとの間にある二つの体系,とについて解説します.
と
は,任意の(集合パラメータありの)算術的論理式に対して,集合が存在する(算術的内包公理)という体系でした.一方は,この操作を任意の(可算)順序数に沿って行える,というものでした.もう少しフォーマルに述べると,では任意の順序数と任意の算術的論理式に対して,次のようにして集合族を定義することができます:
ここで,はという集合で,今まで定義されたたちの情報をすべて持っているような集合になります.
と
の例からもわかるように,算術的内包公理を繰り返すことでより複雑な集合を作ることができるようになります. そこで算術的内包公理の繰り返しにより体系を複雑化させることを考えたいのですが,まずでどの程度の繰り返しができるかを考えてみましょう.すると,任意の標準自然数に対しては回の繰り返しができることがわかります(つまり,上のの説明での場合はでも証明できます). ところが,これより少し複雑な,「任意の有限順序数に対して回の繰り返し」はでは一般にできません.このに「任意の有限順序数に対して回算術的内包公理を繰り返せる」という公理を付け加えた体系をと呼びます.そして,より強い体系として,「最小の無限順序数(の順序型)回」の繰り返し」を認める体系をと言います.
体系たちの強さ
定義から明らかにとなることがわかりますが,これらの不等号はすべて真の不等号になります.
定理:
(証明) 任意にPAの超準モデルを取る.をで集合パラメータなしの算術的論理式で定義できる集合全体とすると,はのモデルだが のモデルではない.
系:
(証明) より明らか.
定理:
(証明) 明らかにモデルにおいてはとに違いはなく,したがって上で算術的パラメータなしで定義できる集合の全体ARITHはのモデルである.一方でこれはのモデルではない.
定理:
(証明) はのモデルだがのモデルでない.
関連する定理
以上のように,それぞれの体系が別々の強さを持つことがわかりました.それでは,各々の体系と関連する定理には何があるでしょうか?とについてはSimpsonのSubsystems of Second Oder Arithmeticに詳しく述べられているので,ここでは残りの二つについて述べようと思います.
まず,は上でフルのRamseyの定理と同値であることが知られています.(Hirschfeldt,Slicing the Truth,定理6.27) より一般に,をパラメータとするような問題であって,解の複雑さが(の適当な式)回Turingジャンプ程度になるものについては,証明するのにでは不十分でこの体系が必要なものと思われます.
また,については,Hindmanの定理と関係することが知られています.Hindmanの定理ついては現状との中間にあることはわかっているようですが,厳密な強さについては未解決のようです.(Blass,Hirst,Simpson, Logical Analysis of Some Theorems of Combinatorics And Topological Dynamics,定理2.6,定理4.12)
おまけ
以上のように,算術的内包公理の繰り返し回数を適当に制限することによってとの間に様々な体系を作ることができます. このような形で作られる体系は,他にもあり,例えば繰り返しの回数を原始再帰的順序数に制限したなどが知られています.
二階算術の諸体系のモデル
この記事はMathematical Logic Advent Calendar 23日目の記事です.
内容は二階算術の公理系のうち,Big Fiveと呼ばれる基本的な5つとのモデルの最小性についてです.