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Boole代数の完備化

任意のBoole代数は,完備Boole代数の中へ稠密に埋め込めることを示します.

分配法則の一般化

完備Boole代数では以下のように無限和,無限積に対する分配法則が成り立っていました:

 x +\sup A = \sup \{a+ x: a \in A\}, x \sup A = \sup \{ax: a \in A\}

 x + \inf A = \inf \{ a+x : a \in A\} , x \inf A = \inf \{ax: a \in A\}

これは,次のように一般化することができます.

定理1.1  Bを完備Boole代数として, A, A' \subseteq Bとする.このとき,以下が成り立つ:

(1)  \sup A + \sup A' = \sup (A+A'), \sup A  \cdot \sup A' = \sup (AA')

(2)  \inf A + \inf A' = \inf(A+A') , \inf A \cdot \inf A' = \inf (AA')

ただし, A+A' = \{a + a': a \in A, a' \in A'\},AA' = \{aa': a \in A, a' \in A'\}である.

[証明] (1) まず,和について示す.  \sup A + \sup A' A+A'の上界であるのは明らか.  x A+A'の上界とする. a' \in A'を固定する. 各 a \in Aについて x \geq a+a'なので x \geq \sup \{a+a': a \in A\} = a' + \sup A a'は任意のなので, x \geq \sup \{a' + \sup A: a ' \in A'\} = \sup A + \sup A'

積についても同様に示せる.

(2)は(1)にDe Morgan則を適用すれば良い. q.e.d.

埋め込み

定義2.1  BをBoole代数として, A \subseteq Bとする.  ABの部分Boole代数であるとは,以下を満たすことをいう.

  •  0,1 \in A
  •  A +,\cdot,-で閉じている

上の定義は以下と同値になります.

  •  0 \in Aまたは 1 \in A

  •  A -で閉じている

  •  A + \cdot のどちらかで閉じている

証明は -0=1, -1=0とDe Morgan則によります.

定理2.2  A,BをBoole代数として,h :A \to Bを準同型とする. このときhによる Aの像 h[A]は Bの部分代数である.

証明は準同型の定義からすぐに従う.


定理2.2より,準同型h:A \to B A \to h[A]という全射準同型であるとみなすこともできます. したがって, h単射であれば,A h[A]は同型になります. とくにこのとき, a \in A h(a)を同一視することにより, A Bの部分代数であると見ることもできます.  Aから Bへの単射準同型のことを埋め込みとも言い, Aから Bへの埋め込みが存在するときに, A Bに埋め込めると言います.

以下,Boole代数 Bに対して B \setminus \{0\} B^+と書くことにします.

定義2.3 埋め込み h: A \to Bが稠密な埋め込みであるとは,以下を満たすことを言う:

 \forall b \in B^+ \ \exists a \in A^+ \ a \leq b

稠密な埋め込みが存在するとき, A Bに稠密に埋め込める,と言います. また, A Bの部分代数であり,包含写像 a \mapsto aが稠密な埋め込みであるときに ABの稠密な部分代数である,と言います.

完備化

任意のBoole代数は, \mathbb{Q}の順序完備化として \mathbb{R}が得られるのと同じように,完備Boole代数へと稠密に埋め込むことができます.

定義3.1 BをBoole代数として, A Bの部分代数であるとする.  BAの完備化である,とは Bが完備であり A Bの稠密な部分になっていることを言う. より一般に,Boole代数 Aが完備Boole代数 Bに稠密に埋め込まれる場合も, B Aの完備化である,という.

定理3.2 任意のBoole代数は完備化できる.すなわち,任意のBoole代数 Aに対して,ある完備Boole代数 Bがあって A Bに稠密に埋め込める.

定理3.2は,有理数を完備化して実数を作るときと同じように,下に閉じた集合(切断と言います)を新たな要素として付け加えることで証明されます. 当然,切断は,その上界全体の下限になっていて欲しいのですが,ここで一つ問題があります. それは,異なる切断で,上界全体が一致するようなものがある,ということです.

正則切断

そこで,上界の一致する切断のうち最大のものを代表としてとることとします.厳密な定義は以下の通りです.

定義4,1  U \subseteq A^+が切断である,とは以下を満たすことである:

 p \leq qかつ  q \in U \Rightarrow p \in U

さらに,切断 Uが以下の条件を満たすとき,正則切断という:

任意の切断 U'について, \forall a ( a Uの上界 \Rightarrow  a U'の上界)  \Rightarrow U' \subseteq U *1

例: p \in A^+に対して, U_p = \{q \in A^+: q \leq p\}は切断.さらに, \sup U_p = p \in U_pなので正則切断.また \varnothingは正則切断.

さて,正則切断の定義はこのままでは扱いずらいので,正則切断の特徴付けを考えましょう.*2 以下,切断 Uに対して U^{up} Uの上界全体の集合とします.

補題4.2 以下は同値

(1)  Uは正則切断

(2)  \forall p \not \in U \exists q \leq p \ U_q \cap U = \varnothing

[証明] (1)  \Rightarrow (2) 対偶を示す. あるp \not \in U について \forall q \leq p U_q \cap U \neq \varnothingと仮定する. このとき U_p \not \subseteq Uである.

 U_p ^{up} \supseteq U^{up}となることを示す.  a \in U^{up}かつ a \not \in U_p^{up}とする. このとき, a \not \geq pなので p-a \neq 0だが, U_{p-a} \cap U = \varnothingなので矛盾.

(2)  \Rightarrow (1) 背理法により示す.切断 U'について U^{up} \subseteq U'^{up}かつ U' \not \subseteq Uとする. このとき, p \in U' \setminus Uが取れる.  p \not \in Uなので,ある q \leq pについて U_q \cap U = \varnothingである. このとき任意の u \in Uについて uq =0である. したがって u= uq + u(-q) = u(-q)となるので -q \geq uである. このとき -q \in U^{up}より -q \geq qとなり矛盾する. q.e.d.

系4.3  U,Vを正則切断とする.このとき, U \cap V \{p: U \cap U_p = \varnothing \}は正則切断.

[証明]

前半は明らか.

 U' = \{p: U \cap U_p = \varnothing \}とおく. U'が切断となることは q \leq p \Rightarrow U_q \subseteq U_pより従う.  p \not \in U'とすると, q \in U \cap U_pが取れる.このとき, q \leq pであり, U_q \subseteq Uである.  r \leq qとすると U_r \subseteq Uなので r \not \in U'.すなわち, U_q \cap U' = \varnothingである.q.e.d.

定理3.2再掲 任意のBoole代数は完備化できる.すなわち,任意のBoole代数 Aに対して,ある完備Boole代数 Bがあって A Bに稠密に埋め込める.

[証明]  B  Aの正則切断全体として,次のように演算を入れる:

 U\cdot V = U \cap V , U+V = \overline{U \cup V}, -U = \{p: U_p \cap U = \varnothing\}

このときBはBoole演算であり, p \mapsto U_pという写像により A Bに稠密に埋め込める.q.e.d.

完備化の一意性

Boole代数の完備化は,同型を除いて一意に定まります.

補題5.1  B Aの完備化とする.このとき,各 b \in Bについて  b = \sup \{a \in A: a \leq b\}

[証明] 以下, \{a \in A: a \leq b\}  A_b と書くとする. 定義から b \geq \sup A_bである.  b \gt \sup A_bとするとb - \sup A_b >0なので b - \sup A_b \geq aなる a \in A^+が取れるが a \in A_bとなり矛盾. q.e.d.

定理5.2 Boole代数の完備化は同型を除いて一意に定まる.

[証明]  Aブール代数とし, B,C Aを稠密に含んでいて完備であるとする. このとき, h: B \to C h(b) = \sup_C A_bにより定義すると hは同型である. ただし,右辺は Cにおける上限とする.

 h全射性は c = h(\sup_B A_c)により従う. 単射性を示す.  b \neq b' \in Bについて,一般に b -b' \neq 0として良い. このとき b - b' \geq a \in A^+が取れる.このとき a \sup A_{b'} = 0より a \not \leq h(b')となる. 一方 a \leq h(b)なのでh(b) \neq h(b')

 hが演算を保つことはDe Morgan則と定理1.1から従う. q.e.d.

参考文献

  • Logic of Mathematics: A Modern Course of Classical Logic (著: Adamowicz , Zbierski)

  • Set Theory The Third Millennium Edition, revised and expanded (著: Thomas Jech)

*1:この条件は a Uの上界  \Leftrightarrow  a U'の上界とできそうな気がします

*2:最初から4.2(2)を正則切断の定義として採用すればここの議論は不要ですが,議論の流れとしては4.1の定義の方がわかりやすいでしょう.