無理数の無理数乗は有理数になるか? 具体例を考える
この記事は日曜数学アドベントカレンダー10日目の記事です
もともとは数学基礎論の一分野である逆数学の宣伝記事を書こうと思っていたのですが,イントロだけでもあまりに書くことが多かったのでそちらは諦めました.最近は日本語で読める解説書もあるので,逆数学の紹介はそちらに譲ることにします.
https://www.amazon.co.jp/逆数学-定理から公理を「証明」する-ジョン・スティルウェル/dp/4627054513
とはいえ全く紹介しないのも寂しいので少しだけ逆数学の宣伝を…
普通の数学では,ある公理系の下でどんな定理が証明できるのか,ということを考えます. 一方で,何かの定理があった時に「その仮定は本当に必要なの? 必要ならどこで効いてくるの?」みたいに考えることもまたよくあることだと思います.逆数学では後者の考え方に焦点を当てて,「ある定理を証明するのにどれぐらいの公理が必要なのか」という問題を(適当な枠組みの下で)考えます.普通の数学が「公理→定理」という方向で証明するのに対し「定理→公理」という方向を考えていくので「逆」数学と呼ばれるわけです.このような作業の中で,一見関係のない別々のものにつながりを見出せたり,通常は明らかに正しいような公理が成り立たない世界を考えて破壊的な結果が得られるのがこの分野の魅力です.
上掲スティルウェル本ではユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学の話など馴染みのある話題から始まっていて,逆数学のモチベーションがわかりやすいのではないかと思います.
逆数学の宣伝はこれぐらいにして,本題に移ります.
無理数の無理数乗は有理数になるか?
という有名な問題があります.すなわち,が有理数となるような無理数の組は存在するか? ということですね. 結論から言うと存在します.おそらくその最も有名な証明は,かのどちらかが条件を満たす,というものでしょう. もしが条件を満たさないのであればは無理数なので,が条件を満たすことになります.この証明の面白いところは,とのどちらが条件を満たすかはわからないが,少なくともどちらかが条件を満たすことはわかる,というところですね.
無理数の無理数乗は有理数になりうる…では,具体例は?
無理数の無理数乗が有理数になりうることがわかったら,次に気になるのはその具体例です.上記の証明は残念ながらその具体例を与えてくれません.が無理数かどうかを考えればいい,ということはわかりますが,これは難しいです.ゲルフォント=シュナイダーの定理なるものによって無理数となることがわかるらしい*1ですが,筆者はこの定理の証明を知りません.
を扱うのは難しい
であれば,もう少し簡単な例で具体的に与えられないかを考えてみましょう.は扱いやすそうな無理数なので,とりあえずのナントカ乗という形について考察をしていくことにします.無理数乗も扱いが大変なので,まずはの有理数乗について考察していきましょう. すなわちという式について考えます.ここで,はでない整数です.この式を整理するととなりますが,素因数分解の一意性を考えれば,はでない素数にはなりえません.すなわち,やはありえないということですね.
の有理数乗は3にならない
これはつまり,
となるとき,は無理数
ということです.これで無理数の無理数乗が有理数となる例を与えることができました*2.このままではが結局なんだかよくわからないという気もするかもしれませんが,と書いておけばよく見知った数に見えると思います*3.
まとめ
が有理数となるような無理数の組は存在するか?という問題に対しては簡単な議論でという具体例を与えることができる,ということでした.もも簡単な議論で無理性が確認できるのが個人的にお気に入りです.